病状よりも、ときには薬を飲む方がしんどし・・・
お腹を壊した。
元からお腹の頑丈な方ではない私のことなので、これといって大騒ぎするほどの病状ではないのだが、年に一度か二度、「常軌を逸しているのではないか?」というほどの腹痛というか、下痢がやってくる。
もうそれは、年に一度の特別大放出ってくらいの豪快さであり、前置きが遅くなりましたが、これからこの日記を読む方は、口に食べ物を含んだりしている最中であってはいけません。よろしく。
とにかく水っぽいのである。
水っぽいというか「水」。
そして吐き気。
下腹部の激しい痛みと、5分もおかずの忙しいトイレットタイム。はっきり言って、出たり入ったりするよりトイレに篭城していた方が体力消耗しなくて「良し!」ってほどの頻度。
そしてそこで排出するものは「水」。固形物ではなく、液体物。まるで水のようにさらさらと、「今、なにか出た?」って感じる間もなくナチュラルに、ほぼ汚濁なくそれらは開放されるのである。
明らかに通常の下痢とは違う「厄介度」を感じた私は、「この厄介者には特効薬なしだろう」と悟りつつも、藁にもすがる思いで「正露丸糖衣A」を飲んでみたが、二時間経過しても効果なし。
激しいお腹の痛みと吐き気、そして尋常ではないトイレの頻度を見かねた現地人のマダム(というより「頼れるオッカサン」という感じ)が、「薬局行くよ!!」と誘ってくれたので、「現地の薬を口にするのは崖っぷちギリギリに立ったとき」という私の信念には反するのだが、目上の人を立てて「薬剤師さんのいない適当な薬局」に出向くことにした。
「吐き気があり、お腹も下しています」という病状を訴えると、薬局のおじさんは「じゃっ、この薬を一日三回、一回につき“1タブレット”飲むように」と、見るからに喉につかえそうなサイズの錠剤を出し、さらに余計なことに「この粉末を1リットルのお湯に溶かして飲むように」と、2種類の薬を差し出した。
マダムは早速満足げに、錠剤と粉末をテーブルの上に並べ、まずは粉末の方を薬局で言われた通りにペットボトルに入ったお湯に溶かし、そしてその薬をもってして、「錠剤を二錠飲みなさい」と言う。
え?
薬局の人、一回につき一錠って言ってたけど・・・。
「一錠でしたよね?」と、人差し指のジェスチャー付きで(さらに笑顔も交え)マダムに聞き返すと、険しい顔で「二錠だよ」と答える。
長さおよそ1.7cm、幅およそ1cm、厚みおよそ0.7cm。
こんな危険なサイズの錠剤、規格外個数を摂取していい訳がない。
マダムの険しい表情に根負けして、飲んだところで死ぬことはないだろうが、まだたった二時間前に「正露丸糖衣A」を飲んだばかりでもある。
これでは症状が悪化するか、または別の病状が出てくるか、もしくは「可もなく不可もなく」の中途半端な結果となるか、いずれに転んでも「ガマンして飲んだところで良い事なし」である。
私は他の英語の通じるネパリーを捕まえて「薬局では一回につき一錠飲むようにって指示だったんだけど、マダムは二錠も飲めって言うの」と訴えると、マダムとしばらく話したネパリーは「トイレの回数が頻繁だから二錠飲んだ方がいいって。二錠飲んで」と、シロウト判断のムチャクチャなことを言う。
トイレの回数で錠剤の数決めちゃうの?
しかも、薬で薬を飲めってすごくない? 通常は、水かお湯で落ち着くでしょうよ。
「そんなね、なにもかも無茶な指示には従えないよ」という顔つきで、薬を飲むことを渋っていると、「だったら手始めにこっちの粉末の方を飲みなさい」とペットボトルを差し出される。
その色の感じは「ポカリスエット」とまるで一緒なのだが、味は雲泥の差で異なると容易に想像ができたので、これまた口に含むことを躊躇。ポカリのうまさを知ってしまっている人間としては、類似品(ポカリは薬ではなくスポーツドリンクなわけだが)など口に出来るわけがない。
私の身を案じて薬局に連れて行ってくれたことを考慮しても「ごめんなさい。納得できないので拒否します」と、曖昧なジャパニーズスマイルを浮かべて後退りをする。
するとマダム、迫力ある顔がいつもに増して危険な表情になり「これを二錠、こっちはペットボトルの中のものをすべて飲み干しなさい」と、厳しい口調で言えば、そのやり取りを見ていた他のネパリーは「このほかにもペットボトルあと3本分だよ」と、きっついコメントを付け加える。
過酷だ。
正直言って、今のこの腹痛といった症状なんかよりずっと、薬を無理して飲まなければいけないと迫られている今の状況の方がずっと、地獄の苦しみである。
言葉を失う私に、マダムを含めた周囲のネパリー数人が「早く飲みなさい」「飲んでもないのにマズイから嫌だって? 薬がマズイのは当たり前だろ!!」「これ以上症状が悪くなってもいいのかっ?!」と、叱咤激励の「叱咤」の部分でばかり追い立てる。
仕方なく、まずは見てくれがポカリに似てる方から口にしてみる。
うえぇぇぇ〜〜〜。
中途半端に甘いんだけど磯っぽい味がするぅ。
こんなのペットボトルのキャップ一杯分だって無理だわ。
「やっぱり無理でした」と、ペットボトルを返品しようとすると、まさにそこには「鬼のような形相」のマダムが立ちはだかっており、小心者の私にはそれを実行することは出来なかったのである。
そのかわりといってはなんだが、マダムと他数名のネパリーの目を盗み、錠剤は一錠だけを飲んでもう一錠はポケットに隠し持ち、磯風味の液体の方は半分だけを飲んで残りは土を潤してあげたのだった。