魅惑のマネキン

私がバリ島に到着してからというもの、連日鬱陶しいくらいの晴天続きだったのが、今朝は珍しく「全面的に曇り空解禁」といった空模様で、今にも雨が降り出しそうな天候である。

今日はデンパサールまで素材の買出しに出掛けたのだが、案の定、出発して間もなくにポツポツと雨が降り始めた。

それでも今日は「車で快適にお買い物」だったので、仕事にそれほど支障をきたすことはなかったのだが、デンパサールからウブドに戻ってからはバイクで活動しなければならず、いくらレインコートを着ているとはいえ、雨の中を雨粒に打たれながら動き回らなければいけないというのは気が重いものである。

お陰で部屋に戻った頃には、頭痛で頭が重くなっていた。

ちなみに今日は、ウブドだけでなく、デンパサールもクタもサヌールも曇りがちで、場所によってはしっかり雨が降っており、ウブドなど一日だらだらと雨が降り続いた一日だった。ひょっとしたらこれを皮切りに、しばらく雨の多い日が続くかもしれない。

今日の買い物は、オリジナルワンピースの製作に使用する布と、これまたオリジナルバッグの素材と、訳あってお店の周辺に花か植木でも植えようかと考えているので、それらを中心に見て回る予定だったのが、まったくの思いつきでマネキンも購入することにした。

いやね。前から近所のお店のスタッフにも指摘されてはいたのよ。

確かに自身でも思った。

「なんだこのブサイクなマネキンは」ってね。

体型がディスプレイにまったくもってふさわしくないゴツゴツ体型で、とくに肩幅など、男性でも負けるのではないかというほど立派なラインをお持ちで、何を着せても「パツパツでまるで購入意欲をそそらせない」という、マネキンとしては致命的な特徴ばかり持ち合わせていたわけですよ。

このマネキンを購入した頃は、まだ服の製作に取り掛かったばかりで、さらには、どこでなにを買い出せばいいのか模索状態にあって、たまたま通りがかったお店に「マネキンがあったから」という安易な理由で購入してしまったわけである。

そしてそのマネキンを意気揚々と店に持ち帰り、早速服を着せようとしたときに、ようやく唖然としたのである。

「なんだこのジャンボサイズは・・・・・・」

その頃お店に置いてあった服では、何を着せようとしてもフィットどころか入りはしない。仕方なくマネキンサイズの服をオーダーメイドしたほどである。一体なにやってんだ?

そんなマネキンを周囲のお店のスタッフは「このマネキンは本当によくないね。せっかく服が可愛くてもこれに着せると可愛くなくなる」だの「こんなマネキンはさっさと捨てろ」だの「いつ見ても変なマネキンだね」だの、お店のスタッフでさえそのような直接的な表現などせずに「マネキンが大きくて着せられる服が限られちゃうんだよね」という控えめな表現で我慢していたというのに、まったくもって遠慮のない素晴らしい方々である。

私は「ブサイクマネキン」を平気で展示し続けるお店の関係者として、堂々と肩を張るマネキンとは逆に、常に肩身の狭い思いをしていたわけだが、あまりにそのことを指摘され続けたので、逆に頑なになり、「私はこのお店が潰れるまでこのマネキンを使い続けるであろう」と、周囲には宣言しないでまでも心の中では思っていた。ま、マネキン買うのに懲りたわけだね。ステキなマネキン探すのも面倒だし。

だが先日、現地在住の日本人オーナーから「こんなかわいい服があるのに、なんでこれ飾らないの?」と言われ、「あ、うちのマネキンなに着せても大抵のサイズが入らないんですよ。Lサイズでも無理なこと多くて、着せたい服がものすごく限定されちゃうんですよ」と自虐的に笑うと、「なにやってんの? そんな服着せたところで売れるわけないじゃん。新しいマネキン買いなよ」と、これまで他の人から散々言われてきたことを反復されたのである。

英語とインドネシア語、そして日本語とでは、なんだか日本語で言われる方が響くものがある。母国語だからね。正確に、ダイレクトに言葉が入ってくるから理解力も高まってしまうわけだ。あたりまえの話だが。

恩師であり、尊敬するオーナーでしたので、その時は「わかっちゃいるけど、絶対に新しいマネキンなど購入しません!!」などと、意味のない意地っ張り発言をして抵抗などしなかったものの、「デンパサールならマネキンくらい簡単に見つかりそうだから時間があったら見ておくか」という程度の気力で臨み、入店した一軒目の什器屋さんで、一分で購入を決めたマネキンがコレ↓

どうだろう?
どちらが男性仕様のマネキンで、どちらが体のフォルムが優雅な女性を表現しているマネキンか、その違いがおわかりであろうか?
似たようなデザインの服を着せても、「着る人」によって、これほどまでに与える印象というのは違ってくるのである。

認める。
私が間違っていた。
私は今までお客様のサイフのヒモを固くさせていた。
でも、これからも創業当時からのマネキンは使い続ける次第であります。(マネキンとの記念撮影大歓迎)