棟梁、貫く

そろそろ「晴れ女」と自称してもいいのではないかと錯覚するほど、私がバリ島の、とくに降水量の多いウヴドにやって来てからというもの、珍しく手短に降った、たった一度の雨のみで、快晴の続く毎日である。

私がバリ島に降り立つ前日までは、毎日毎日うんざりするほどの雨が続いたという。
中には、朝昼晩と、一日くどいくらいに降り続く日もあり、「ここ数年は本当に天候がおかしくて、乾季だというのに雨が多い」と現地の人が嘆くほど、一週間欠かさず毎日雨が降るという日も珍しくはなかった。

だから私もそれを覚悟してバリ島へやって来るのだが、この5日間、奇跡的に良い天候(日差しが熱過ぎるが…)が続いていて、外出の多い仕事をしている身には大変助かっている。

さて昨日。

雨漏り箇所の傷んでカビがひどかった天井板を交換するためだけに、これまで最高人数であるトリオで作業にあたった大工の棟梁だが、その作業の際に点灯しなくなってしまった店内のライトを直しにやってきた。

自分たちの不始末に対してきっちり責任を果たすというのは、大抵どこの世界でも「まぁ、どっちかっつぅーと当然のことかなぁ」ということなのだが、ここではそんなこと期待できないよなぁと半ば諦めていたので、棟梁がお店にやって来たときには大歓迎してしまったほどだ。

そう。たとえそれが、昨日の作業の中で、一番なんの役にも立っていなかった棟梁ただ一人の来店だったとしても・・・・・・。

昨日なにかといえば「できねぇ〜なぁ」「わっかんねぇ〜なぁ」「どうしちまったのかなぁ〜」というようなことばかり口走っていた棟梁だったので、「あ〜、やっぱりあの照明は今日も点かないんだろうなぁ」と思ってたら、期待通り、ほんの5分ほど照明をいじった棟梁の口からは「電気のことはわかりません」そもそも俺、大工だし、無理だから、みたいな感じでさじを投げられた。

何度も言うが、これが数ヶ月前までの私だったなら、間違いなくそのまま黙って大工を帰宅させるようなことはしなかったであろう。

相手に何も響いてないことは承知のうえで、日本の業者になら通用しそうな正論を捲くし立てていたに違いない。

しかしこのたびの私は「この一点」に限っては別人である。

「しょうがないなぁ〜。でも電気の配線がわかる人は紹介してよ」と念を押し、「まだお昼食べてないんだよねぇ」「私だってまだ食べてないんだよ!!」と、最後まで気合の入らない会話を交わし、結局、昨日も今日も「で、結局なにしに来たの?」に終始した棟梁の後姿を見送ったのであった。一貫してるねぇ。