受け継ぐもの

「バリ人の女の人って大変だなぁ」って、いっつも思ってた。

毎日毎日、日に何度も繰り返されるお祈りと、それに合わせたけっこうな数のお供え物を、どんなに忙しかろうが、欠かさず作らなければいけない。

結婚したら、嫁ぎ先の実家で生活しなければいけないし、家の跡取りとなる息子を産むことが最重要事項。

ひとくくりにして言い切ってしまうのには抵抗があるが、比較的こっちの男の人は、日本人男性に比べると「お金を稼ぐ」ということに対して本気で切羽詰った感がない人がほとんどだし、仕事態度は「すっかり寛いでるなぁ」って感じで緊張感は皆無。口動かしてる方が断然多い。

男性に限ったことではないし、万国共通のことではあるけど、「すきあれば浮気」って感じの言動が多く、奥さんや彼女は常に男性の行動に目を光らせていなければいけない。


う〜ん、家のことだけやるのも大変なのに、毎日のお祈りとお供え物に、しょっちゅうあるセレモニーでも女性の役割は多いし、そのうえ外で働いてお金を稼いで、旦那や彼氏の監視も怠れないってのは、気が休まないなぁ。

特にお祈りとお供え物っていうのは「神」に捧げるものだから、「あー、今日は面倒だから明日やればいいよねぇ」とか「だるいからお休みしちゃおう」だとか、そういうわけにはいかない。信仰心に手抜きは禁物なのだ。

真摯な気持ちでずっとずっと、続けなければいけないこと。
私の生活の中でそんな「半永久的」にしなければいけないことって、死ぬまで生きるってことくらいかなぁ。

仕事と家庭の両立と、絶対的な信仰心。
「今日もたくさんお供え物作ってるねぇ」なんて、作業の手元を覗き込んでたら、「今日はうちの子供がお祈りするっていうんだよ」と言って、娘の腰にサロンを巻いて、お祈りに必要なお供え物を一式揃えると、娘と母親はふたりで自宅の裏手に消えていった。

私もその後をついて行くと、母親が娘のすぐ側について、十分勝手のわかっていない娘に助言をしながら、まだそれを執り行うには幼すぎるようにも思える丸くぷっくりした指先で、祈りは捧げられていた。

清らかな花に含まれた聖水を何度も何度も空に弾き、真剣な眼差しで祈り続ける。
傍らでは、母親が娘の祈りを静かに見守っている。
母から娘へと、ずっとずっと昔から、引き継がれているもの。
大切なものを受け継ぐ幸福なひとときを、バリ人の女性は恐らく誰もがみな平等に、神のもとでこうして授かってきたのだ。

その凛とした眩しい光景に、私は素直に感動する。
母と娘の尊い姿に、清清しく、穏やかな心を取り戻す。
どんな時を過ごしても、やわらかな、静かな安らぎに満ちる祈りのときを、この島の女性はみな、ちゃんと受け継いでいるのだ。