確かなグルメはワルンから

予算的な問題もあって、私の食生活は常に地元のワルンと共にある。

しかしお店を始める以前は違った。

日本での食事代に比べたら安いのだが、毎回毎回けっこうな金額をふっつーにお支払いしていたものだ。
一時期など、毎晩ステーキだのチキンのグリルだの肉の塊を食べていた。
当時のレートで500円程度だが、きっちり飲み物も、果ては食後のデザートまで頼むので、夕食だけで700円から800円の出費である。
今ではとても考えられない金銭感覚だ。いや、今は今で考えられないような金銭感覚であるのだが。どうしてこうも両極端なのか?

それはそうと、安くて美味しいワルンが私は大好きである。

「見せるか隠すか」の問題で、アジアという国はどこでもさほど大差ないようにも思えるのだが、とくにワルンでは衛生面という難点はつきまとう。

私の行きつけのあるワルンなど、毎度「えっ!! スゴイっ!! 日本だったら一発でお店が潰れるようなこと、平気で出来ちゃうんですね」って発見の連続である。

そんな現場を目撃しても、なおも日々通い続ける私の神経も立派なものだが、先日「これは、私がネパールでも見たことのない衝撃(あるいはすでに笑撃の域に到達)映像であるかもしれない。いや、確実に“かもしれない”って部分は不要だろう」という作業に立ち会うこととなり、このブログで発信するべきか否か、思い悩んでいる次第である。
いやぁ〜、あれはちょっとスゴイよ。
なんせ「どんぶらこぉ〜、どんぶらこぉ〜」の世界だからね。

ところでワルンのお楽しみは、メインの食事だけに限らない。
たいていワルンの壁一面やテーブルには、スナック類やらインスタント系の飲み物などがディスプレイされているのだが、この中に、思いもよらない逸品を発掘することがあるのだ。

発掘と表現すると語弊があるかもしれない。

正直言うと、自分ではなかなか手をつけようとは思わないスナックなどもあり、私の場合、自ら積極的に食してみるというよりかは、ワルンの主人に「これ、すごく美味しいよ」と勧められて試してみるというのがほとんどだからだ。

私は味覚が子供レベルのようで、ワルンの主人に勧められ、さらにワルンの子供のお墨付きがつくと、ようやくそれを口に運ぶのだが、その場合そのほとんどが間違いなく「my favorite snack」となり、バリ島を出国するまで毎日食べ続ける大ヒット商品となる。
私の中でだけ、だけどね。

あるときなどスナックではないが、ワルンの主人に「これ、すっごく美味しいよ。私大好き」と、店の片隅に地味に置かれていたゆで卵を勧められたことがあった。

通常、私はゆで卵を口にする機会など滅多にない。
最後にいつ、自分がゆで卵を口にしたかという記憶すらない。
そもそも私は板東英二ではないのだ。
ゆで卵に食い付くようなことはしない。

私は主人が幸せそうな顔をしてモグモグとゆで卵を頬張る姿を、どこか冷めた目で見ていたのだが、そのゆで卵の売れ行きはよく、現地の人が次から次へと購入していくものだから、いよいよ私も手を伸ばす決意をした。なぜなら「面倒くさいなぁ」と思っていた卵の殻むきを、ワルンの子供がやってくれるというから。

それはアヒルのゆで卵で、ワルンの主人が「これを作るのにはけっこう時間が掛かるんだよ」と教えてくれたことだけが、わずかに記憶に残っている。

私は、子供が一生懸命剥いてくれたんだけど、うまく剥けなくて「表面ぼっこぼこの月面状態になっちゃった卵」を、できればキャンセルしたかったのだけれど、勇気を持ってそれを一口頬張ってみた。

それがもぉ、美味しくて、美味しくて・・・。
ほんのりとした塩味で、白身も黄身もクリーミィー。
私が今まで食べたゆで卵というものの中で、間違いなく一番おいしい代物だった。

ワルンとは私にとって、こういう発見があることが楽しみな場所であり、食べるというひとときを、本当に幸せだと感じさせてくれる貴重な場所でもある。
そのことを、地元の人に教えてもらえるということ、なによりそれが幸運なことだと、私は思う。