友達の友達という困った特権

日本でまったく知らない人から掛かってくる電話といったらイタズラやセールスの類だが、ここバリ島ではそれ以外の内容の電話も少なくない。

知らない人(初対面の人)から差し出される食べ物や飲み物には躊躇なく手を出す私だが(危険なのでマネしないように。私だってたまには拒否してます。あんまり美味しそうに見えないものとか)、国内外ともに、未登録の着信番号からの電話は絶対に出ない。

だから「不明な人」からの電話を受信することはほとんどないのだが、ここバリ島では「登録番号からの電話なのに、なぜか相手は見ず知らずの人」ってことがあるのである。

どういうことかというと、どーってことはない。
友達の携帯電話を使って、見ず知らずの人間に電話を掛けてくる、もの珍しい輩がいるというだけの話なのである。

こういうことは過去に何回かあったものの、その場で「見ず知らずの人→友達」に電話を代わってもらい厳重注意をすることによって、その問題は徐々に下火になってきた。

「日本人の友達がいる」ということで、物珍しさから電話を掛けてきているのだろうということはわかっていたので、気味が悪いということもなかったし、目くじら立てて怒るようなことでもないしと油断していると、今度は「自分の友達だから」というだけの理由で、私の知らない人に私の番号を教える人間が何人か出てきた。

まさに「友達の友達はみな友達」というノリだ。
カンベンして欲しい。

つい先日も、友達の番号から着信があったので出てみると、日本語の話せない友達の口から流暢なジャパニ〜ズで「あ、もしもし? 今どこ?」なんて言われたからびっくりである。そもそも、知らない男の声だし。

「誰?」と突き放したように聞くと「あ、おれコマン。よろしく。●●の友達」から始まって、「なに? 今なにしてんの?」「どこに泊まってんの?」「日本のどこから?」「今いくつ?」「血液型は?」と、呆れるばかりの質問攻めが始まった。

友達の友達であることは判明しているので、あまり邪険に扱わないようにと受け答えしていたが、顔も合わせていない人間に一方的に個人的なデータ(しかもどうでもいいような)を聞かれたことにうんざりして、「血液型ってなんのために知りたいの? どうしても気になるから? だったら絶対に教えない」「知らない人にそんなことまで話したくない」など、大人でない対応を繰り返すも、チャラ男口調の男はくじけない。とにかく子供のように「なに?なに?」「なんで?なんで?」をしかけてくる。

私は正直、気味悪かった。
一刻も早くこの電話を切ってしまいたかった。
なぜならこの男、本当にクセのない正しいイントネーションで日本語を話し、完璧なまでの「軽口の基礎・日本語編」をマスターしていたからだ。

「本当は現地の人間を装った日本人と話しているのではないか?」そんな突っ込みどころ満載で無意味なことを考えてしまうほど、私の忍耐も限界に達していた。

「友達の電話代がかかるから切る」と言うと「大丈夫。心配しないで。オレが電話代払うから」と即答され、もう有無を言わせず切断してしまおうかと思ったまさにそのとき、電波の問題であちら側の声が一切聞こえなくなった。

しめた!!!
罪悪感も一緒にスイッチオフ!!!(実際に電源切ったのではなく切断しただけ)

あー、やっと解放された。
ヘンな汗かいちゃったよ。
あんなに上手な日本語を話す人、初めてだったからびびっちゃったよぉ。
あれ? また電話だ。
!!!!!!!!!!!!!!!
掛け直してきちゃったよ・・・・・・。

「ねぇ。なんで今切ったの? わざと?」「ちっ、違うよ。電波が悪くてそっちの声が聞こえなくなったから・・・」「あ、そうなんだ。だったらいいんだけどさ」って、なんで私いい訳してんだ? 友達でもなんでもない人間からの電話なんて、堂々と切っちゃえばいいじゃんよぉ。
というわけで「みんなでそっちで楽しんで。ば〜いば〜い」と言って電話を切った。

つ、疲れた。
「あ、おれコマン。よろしく。●●の友達」の時点で速攻切るべき電話だった。
久々の「友達の友達はみな友達戦法」でこられたので、その対処法に戸惑ってしまったではないか。

直後、「お口直し」とばかりに姪っ子に国際電話を掛けるも、「いま、みんなであそんでるのぉ〜。バイバイキーン」と、呆気なく別れを告げられる。
そうか。そうだったのか。
「いま、知らない人とは話せないのぉ〜。バイバイキーン」
こうか? こんな感じでいけばいいのか? カンペキじゃん!!
三歳児の愛しい姪っ子から「相手にしている場合じゃない人への、わかりやすくてシンプルな電話対応の仕方」を学ぶ。