セレモニー>親戚>宿泊ゲスト

「明日、セレモニーで親戚中が集まるから、現在宿泊中のお客様には三日間ほど部屋を明け渡していただきます」

このように、丁寧な言い方ではなかったが、とても衝撃的な言葉に違いはない。

セレモニー大国のバリ島。
それは昨日今日で決まる急な行事ではない。

もっと以前からわかっていたことなのに、前日の夕方近くになって「ごめんねぇ。明日から三日間、部屋を出て行ってもらわないといけないの。この話、知ってる?」と、軽い伝言でも伝えるかのように、宿のスタッフが切り出した。

一体それ、なんのこと?

スタッフの話によると、明日からウバチャラというセレモニーが始まり、親戚36名が集まるので、「すでに宿泊分の料金を前払いで全額支払っているゲストに出て行ってもらい、空けた部屋を親戚の宿泊所として利用する」ということになったらしい。

信じられない。

いや、あのボスなら考えそうなことである。
「大事なセレモニーなんだから当然でしょう」
悪気などまったくなく、むしろそう思っているに違いない。

このボス、一番最初にこの宿を利用することになった支払いの段階で、「これからは私たちはファミリーよ。なにかあったら遠慮なく何でも言ってね」みたいなことを言って、「家族ってお金で買えるんですね。知りませんでした」ということを教えてくれた恩師でもあったのに、いつから二人の仲はぎくしゃくしてしまったのであろうか?

ところでお金持ちってのは、ケチだからこそ成立するみたいな定説があるけれど、このボスも例外なくケチである。

あるときなど、別件で私の部屋を訪れたとき、わざわざ部屋の中をすべてチェックして、言った言葉が「電気は一個しか点けちゃダメ!!」である。
10畳以上もある部屋なのに、点灯していいのは電球一個って・・・。

呆気にとられた顔をしてると、「満室で電力が足りないから一個しかダメ」と、ダメダメ言う。

そんな事情、私の知ったことか?
だったらワット数あげろよ。

ってかさ、金持ち趣味ってわかんないけど、この敷地内に噴水4つも作るってどういうことだよ。しかも電力足りないっていうなら、まず最初にそこから電力止めるべきだろ。噴水は一晩中つけっぱなしで、なんで客から優先的に不自由な生活を強要するよ。客商売の考え方、明らかに間違ってるでしょ。

これまでにも、支払った料金のことで問題になったこともあるし(他の友達も経験有)、このボスとは宿泊するたびに、少なくとも一度はもめることになる。

私はこの宿をバリ人の友達から紹介されたので、以後、この宿を予約するときにはまずその友達を仲介してからにしている。
その方が後々何かで揉めたときに、友達が間に入ってくれて話も比較的スムーズに運ぶからである。

今回、前日の夕方に、友達の携帯に「部屋を出てもらうこと伝えて」と宿から一方的に連絡があったときには、別件の急用でそれどころじゃなかった友達はさすがに激怒していた。

友達いわく「あのボス、とっても、とっても“バカボン”!!!」なんだそうだが、怒っている友達には悪いが、それ、“ばかもの”の間違いなんじゃないの?
まぁ、面白いから私も「そうだよねっ!! すっごく、すっごく“バカボン”だよねっ!!」と、同調してみた。

なんかカワイイ響きでいいなぁ〜って笑ってたら、友達さらにヒートアップして「Very Very Stupid」と、バカも英語で表現すると、バカボンのような愛嬌はまったく影を潜め、ものすごいきっつい「バカ」という風に聞こえるから不思議だ。
もうそれは、容赦ないバカって感じである。
あれだな。私の場合、作用がポイズンとはまるで逆だな。

そんなバカボンだが、強制退去中の宿代は返金してくれるとのことで、さすがにどこまでもどうしようもない「バカボン」ではなかったらしい。
唯一それだけは、救いである。