ネズミの実像は「愛されキャラ」ではなかった、のである。

ゴキブリとネズミに悩まされる日々が続いている。

この宿、少々難点はあるのだが、部屋の雰囲気がとても好きなので、ここ数年はバリ島へ来るたびに利用している。

しかし、ゴキブリである。

比較的「料金の手頃な宿」では、出没率が高い生き物ではあるが、その頻度が問題である。
滞在10日も経過しないうちに、すでに5匹のゴキブリを目撃し、そのすべてを、悲鳴を上げながらも果敢に撃退しているのであった。もちろん殺虫剤で。

「ゴキブリは本当に飛ぶのである」という事実も、残念ながらこの宿で体験済みである。
あのときゴキブリは、私に向かって何の迷いもなくまっすぐに飛んできた。
情けないことに、立ち向かってくる生意気なゴキブリを叩き落とすどころか、なぜか自分の頭部を手で守りながら避けるのが精一杯だった。頭の上に着地して欲しくないという心情が働いたのかもしれない。

それはそうと、ネズミである。

いや、ゴキブリ問題も解決したわけではないのだが(とりあえず次回はゴキブリホイホイ持参で対応しようと思う)、日常生活に著しく影響を及ぼしているのは、むしろネズミの存在なのであった。

深夜、早朝と、時間をとわず、奴らはけたたましい鳴き声と走り回る音で静寂を突き破る。それは「チュウチュウ」なんて可愛らしい、生半可な音声ではない。
そんなの漫画の吹き出しにしか存在しない幻なのではないかと思うほど、実情は不快極まりない騒音である。

ネズミ戦争が勃発しているのか、もしくは激しい繁殖期に突入したのか、そのどちらかとしか考えようがない。それくらいの騒動で暴れっぷりなのである。

そんなものだから、私は生後数ヶ月の赤ん坊の親でもないのに、2〜3時間ごとに目を覚ますことになる。完全に寝不足状態である。

スタッフのバリ人が「聞いてぇ。すっごいショックなのぉ。あのねぇ、イスに座ってウトウト寝ちゃって起きたら、膝の上にネズミがいたのぉ」なんて、気色悪いけど他人事だからこそちょっと笑っちゃうよねって感じで聞いてた話が、自分にも身近な問題としてぶち当たることになるとは・・・。

騒音もタマラナイが、ネズミは不衛生でいろんなばい菌を持っているわけだから、この状況に感覚を慣れさせて見過ごすのは危険である。

そこで私は現地の人に相談した。

すると「ポイズン買えばいいよ」と言う。
ポイズン。
訳して「毒」。
恐ろしいものであるはずなのに、使い慣れない英語表記になると、なんだか笑える響きだなぁ〜なんて思うのは不謹慎だろうか?

とにかくポイズンである。
「スーパーで売ってるから、エサに混ぜればいい」と、いともカンタンなことのように言う。

エサってなんでもいいんだろうけど(ネズミって雑食っぽいから)、混ぜないといけないってなんだか面倒くさそうだなぁ。だけどこの生活をあと数週間も続けるのはしんどいなぁ。すぐに環境が改善されるのなら試してみようかなぁ(でもできたら毒なんて盛りたくないんだけど)。

そんなことを考えていると「そうすれば、いつか、どこかで、死ぬ」と、心なしか遠い目をして天井を仰ぐようにする現地人。

『いつか、どこかで、死ぬ』

なんかすっごい曖昧だな、それ。
即効性もなさそうだしな。
一気にやる気をなくした私である。