不景気と不幸の連鎖

非常に景気が悪い。

祖国・日本だけでなく、ここ、バリ島・ウブドで観光客相手に商売をする者にとっても、その厳しい波は平等に、ビッグウェーブとしてやってきているわけである。

宿泊、飲食関連はそれでもまだいい。
そこそこ旅行者はいるわけで、その旅行者が基本的に必要とするものが、「住・食」だからだ。
そう、それに比べ物販は、旅行の必須項目ではないから、不景気だと大いに割をくう。

旅行中に野宿をするわけにもいかないし、ましてやものを食べないわけにもいかない。
そうなると「買物」というのは、必然的に必要事項の最下位項目になってしまうのだ。

そうじゃなくても不景気だってのに、人事だけどもこちらまで気持ちが暗くなってしまいそうなほどの友達の不景気話を聞くはめになった。

まずは「今、ホントにワタシ、ビンボーよ」から始まって、「お金はどこからやってくる」という、思わず説教話に繋がってしまいそうなセリフを吐き、「先月だけで3回も事故よ。車とバイクね」と、自業自得を匂わせる話を始めた。

彼はよく深酒をして車を運転したり、精神的にちょっとしたことがあると乱暴で自暴自棄な運転をしてよく事故を起こしていたので、その手の「同情の余地なし的な話」だと思っていた。

まぁ、聞いていると基本的には「前の車が原因だったとしても、それを避け切れなかったのはスピードの出しすぎだったからでしょ」っていうのが主な感じだったが、タイミングの悪い悲惨な故障なども含まれており、全面的に彼自身の責任でもなさそうだ。

「そうか、そうか」と聞いてると、「その三回の事故だけで1200万ルピーの支払いよ。ほんとーにお金ないよね」と、ため息をつく。

今なんて言った?
せっ、せん、にひゃくまん〜〜〜!!!!!

今のレートで日本円にして12万円ほどである。
これって、バリ人の人にとっては年収に値する。
もしくは、職種によってはそれ以上である。

うわぁ。
ショックだなぁ。
重いなぁ・・・。

話はそれだけにとどまらず彼は続ける。

「この間はね、ネコを轢いちゃったよね」
ここバリ島は、犬や鶏を轢いても比較的へっちゃらなのに、猫を轢くと非常に縁起の悪いこととされている。

あぁ、不幸のオンパレードだなぁって思ったら、「でもね、そのネコ、死んでない」と救いの言葉。「あ、そうなの?! 良かったね」「そう。でもね、ぐったりしてたから、ペットボトルの水を飲ませたよね。でもそのペットボトルの中は水じゃなかった。お酒が入ってた。忘れてたよね。ワタシ、お酒買った。それ飲ませた。そしたらコンコン言ったから意識が戻ったと思った。だからまたお酒飲ませたよね。ワタシ水だと思ってたから。中はお酒入ってるの忘れてた」

なんか話の流れがみょうな方向に流れ出したぞ。

「いっぱいお酒飲ませたよね。ゴハンも食べた。ワタシのひざのうえで・・・。そのネコ、ぜーんぶ吐いたよね。ワタシ、白いパンツはいてたのに、イッパイ汚れたよね。もう、ぜんぶよ、ぜんぶ。ぜんぶ吐いた、そのネコ」

仕方ないだろ。
意識が朦朧としてるところに酒飲ませたんだから。

こんなどーしょーもない話を聞いていたら、不景気どうこう、観光客が物を買わないだのなんだの言ってないで、自分がするべき仕事をするだけ、とっととお店に戻ろうという気になった。