珍しくない光景

閉店時間直後、表から衝撃音が聞こえた。
窓の外に一台のバイクが横転しているのが見える。
それとほぼ同時に、バイクの周りにはすでに数人のバリニーズが駆け寄り、道路に投げ出しになったままのバイクを道路脇まで運ぶ者、転んでしまったバイクの運転手を安全な場所まで連れ出す者の姿が見えた。
私は、このようなバリ人の瞬発力にいつも驚かされるし、躊躇することなく駆け寄る勇気と優しさには常々感服する。

私も今まで何度となくバイクで派手に転んでいるが、そのたびに周囲の人の手によって助けられてきた。
彼らは事故の瞬間を目撃すると、たとえそれが50メートル先の出来事であろうが瞬時に猛ダッシュで走り出し、救助の手を差し伸べるのである。もちろんこれにはただの「野次馬」も相当数含まれる場合もあるが―――。

中には「ただ笑って見ているだけ」という悪質なケースも稀にあるようだが、大抵の場合は「まるで我が事」のように大慌てでレスキューしてくれるので、いつでも安心して横転できる国であるなどと言いたいわけではない。

しかしこれが「犬」や「ニワトリ」などの動物になると少し事情は変わってくる。

私は犬やニワトリが車に轢かれるその瞬間を各一度ずつ、その直後の生々しい死体を数回目撃しているが、思わず悲鳴をあげる私の側で、ほぼ9割のバリニーズが笑って見ているのである。

たとえまだ「虫の息」があったとしても、これが動物であるとなると、いつもの勇敢な手はなかなか差し伸べられないのである。
たいていの場合「仕方ない」であっけなく処理されてしまう。

私はそのギャップにいまだ違和感を感じてしまうし、そこに彼らの宗教的概念みたいなものを大袈裟に嗅ぎ取ってしまいその空気に戸惑ってしまう。

そんな風に、道端でウロウロうろたえるような私をよそに、今日もこの国の、この土地の人々は、力強く温かい手を差し伸べる。
「もう大丈夫。気をつけて」と―――。
私の場合、さらにそこに「運転しちゃだめ」という言葉が付け加えられることがある。

ごもっともである。