思いがけない再会

数ヶ月に及ぶバリ島での滞在も、日本帰国まで残りわずか数週間と迫った昨日、私のひそやかな願いがようやく叶えられた。
正確にいうと、それはちょっと違ったカタチで実現したのだが、あのハノマンの長い道をじゃらんじゃらんするツーリストと、バイクですれ違うたびに、私はずっとずっと、心の中で祈っていた。
流れてゆく景色の中に、Motiの、あの半透明の、黒字がくっきり浮かぶお買上げ袋を、ぷらぷらとぶら下げながら歩くツーリストが、ほんの一瞬すれ違う風のように、私の視界をすり抜けていくようにと。
ガイドブックでも馴染みのある、有名なショップのロゴ入り紙袋は、ほら、ちらほらと、誇らしげに風にソヨイデいるというのに、Moti袋はなかなか姿を現さない。
今日は甘美なフルムーン。
お寺で催されたダンスの鑑賞を終えたのであろう観光客が、つらつらと連なって、楽しそうにおしゃべりをしながら、ひっそり静まり返ったハノマンストリートの夜道に華やかな笑い声を響かせていた。
「あぁ、これからどこかお洒落なレストランで食事でも楽しむんだろうなぁ」
この時間、ウブドの空気は震えるほど冷え切っていて、まだ腹ごしらえもままならない身を、ちぢこませるようにしてバイクを走らせていた私は、そんな風に、彼らをちょっと羨むように眺めていた。
すると暗闇の中に、あの見覚えのある、白とピンクのハイビスカスが私の目をかすめた。
「あっ!」
本当にそれは、「あっ」という間の出来事で、後ろを振り返ったときにはすでに、赤い布地の色だけがぼんやりと浮かぶだけで、そこに散りばめられているはずのハイビスカスの花までも確認することは出来なかった。
だが、あれは間違いなく、本日売れたMotiオリジナルのキャミソールである。
先日この日記でも公開した、まだできたての三種類のキャミソールのうち二着が、この日Motiを去っていったのであった。
苦心の末誕生したグッズは、お買上げ袋の中に窮屈に収まる姿ではなく、新しい主によって身につけられ、のびのびと、ひらりと闇夜を舞うように、私と思いがけない再会を果たすことになった。
彼女のあの、華やかな笑顔を彩るようにして揺らぐキャミソールもまた、どこか楽しげで、これからまた部屋に戻り、ひとりコツコツと深夜に及ぶ作業に没頭しないといけないのかと、そうため息をついていた私だったが、その一瞬にふいに背中を押された気がして、冷たい空気の中、私は晴れやかな気持ちで家路を急いだ。