手強いワケ

デンパサールにある、布の問屋街を訪れる。
ここには何度も足を運んでいるのだが、私にはどうも苦手な場所である。

色鮮やかで美しい布を見て歩くのは楽しい。

だが、実際交渉に入ると、2〜3メートルの購入では1ルピアも負けてはくれないお店がほとんどで、敗北感を味わうことも少なくない。

中には「ロールで購入すれば1メートルにつき5000ルピアのみディスカウントしてもいい」などとぬかす強気な店もある。

そんな大量に購入してしまっては、うちのような小規模なお店は、店をたたんだ後も在庫を抱えるといった悲惨な状況を招きかねない危険な賭けとなってしまう。

せっかくなので、気に入った布を発見することがあれば、国を問わずにその布のカラーを生かしたものを製作したいと考えている私だが、自分としては思いっきって「5メートル購入するから」と申し出たときでさえ「NO!」の一言で切られると、どちらかというと気の短い私はすぐにカチンと頭にきてしまう。
そんな時は、あちらも商売なのだとはわかっていても、腹立たしい気持ちをどうにも押さえられない私は、「ディスカウント してくれなくてありがとねー」などと嫌味を言って言い値を支払うか、もしくは手ぶらで店を立ち去るハメとなる。

現地スタッフによると、デンパサールの布屋の多くはインド人が仕切っているのだという。
確かに、私が交渉して回ったお店の9割方はインド人がオーナーであった。

というのも、バティックやイカット、サロンなどといったインドネシア特産の布以外の多くは、ほとんどがインドから輸入されているものなのだ。

私はネパールでも布を購入しているのだが、馴染みの布屋のオーナーもインド人であった。

ネパールとインドといえば、地理的にも政治的にもとても近しい間柄なので、インド産の布が多く流入していることに対してとくにこれといって何も感じなかったのだが、これはなにもネパール内だけに限ったことではなく、「インド産の布はアジア各国で幅をきかせているのだなぁ」などと、今更ながら痛感することとなった。

そうなると、自然とその手の商売を取り仕切る中心がインド人になるのも、頷ける話ではある。

なるほど。

「ケチの根源ここにあり」と、妙に納得してしまった私なのだった。