追いつ、追われつ

バンガローのオーナーに誘われて、「お寺のお泊り警備」の実態を見学することになった。
なにより、それに付随する「警備の夜食として作られるラワールが食べられる」というエサに釣られてのことだったのだが、オーナーがよく「今日はお寺のお泊り警備で大変だよぉ」などとぼやいていたので、一度どんなものなのか見てみたいという冷やかし程度の興味で同行することにした。
この「お寺の警備」というのは、既婚者の男性のみ課せられた義務である。
セレモニーが近くなると、神様へのお供え物として、銀などで作られた高価な品々が境内に納められるのだという。
それを狙った盗難を見張るための大事な任務なのである。
といってもそこはバリニーズ。
想像していた通り、そこに緊張感など微塵もなく「オッサンのお泊り会」といった、和気あいあいとしたムードが漂うのみである。
どれだけ寛いでいるのかというと、食事の準備が整うという夜10時前に、サロンを巻いてお寺にお邪魔したときは、

すでに熟睡している人、
熱心にテレビに見入っている人、
コーヒーを飲みながら談笑している人、
携帯電話のショートメールを熱心に打ち込んでいる人、
などなど。

総勢十数名のオッサンが、そうそう広くはない境内でだらだらと過ごしている姿は「むさ苦しい」としか表現できないありさまであった。
ちなみに、七時から始められたという料理はいまだ終了しておらず、さすがに待ちきれなくなった男性の中には「味見」というには大量すぎるほどのラワールを口に突っ込んでいる人もいた。
(その筆頭がオーナーであったとき、「あぁ、この人のお腹はどこまで大きく膨らんでしまうんだろう」と、そんなどうでもいい心配をしていました)
あるとき私は、他の既婚者男性にもこのお泊り会について尋ねてみたのだが、「捕まえられたドロボーは警察につきだされるんでしょう?」と聞くと、「うん。でもその前に…」と、不穏な間をおくので、もしやと思い「まさか皆でボコボコにするとか?」「だって、みんな怒ってるでしょう? だから……」とのことだった。
それを聞いてちょっと身震いをしてしまった私だったが、勇気を出してさらに突っ込んでみた。

「それ、やったことある?」
「・・・・・・」
「あるんでしょう?!」
「なっ、ないよっ!!」と、慌てて否定していたが、なぜかその後「ふふふ」と静かにほくそえんでいたのが不気味だった。

そんな話を聞いていたので、私はそれとなく、武器になりそうな物騒なものを探してみたがそんなものはどこにもなく、やがて出てきたのはオッサン達が暇つぶしに持参したゲームのカードだった。
もちろんそれはただのお遊びではなく、彼らはそれで、しっかりとお小遣い稼ぎもするのであった。
しかし、カードによる「賭け事」は警察に逮捕されるご法度ごとである。
ひとゲームが終了し、金が彼らの間を回るとき、男たちはキョロキョロと辺りを見渡して、まるでドロボーのようにコソコソとそれらを懐にしまう。
ドロボーを警備するはずの役割の中で、同時に、オッサンたちは逆に自分たちが「警察につかまる立場」となる矛盾した危険をも犯しているのである。
ちなみにこの行為が見つかって警察に逮捕されると、膨大なワイロを請求されるか、もしくは数ヶ月間もの間、タタミ一畳分あるかないかの窮屈な牢獄で過ごすこととなる。

しかもこのお寺。
警察署とは目と鼻の先の距離である。

お金が出たり入ったりするゲームの中で、一喜一憂している男たちの姿を見て、「くれぐれもミイラ取りがミイラにならないようにね」と無駄な忠告を残し、お寺を後にした。
さらに、後日談で知ったのだが、神聖なセレモニーなどの時にだけ作られるはずの特別なラワールが、この晩「特例」として作られたワケが「ワールドカップのファイナルゲームがあるから」というものであったことには閉口した。