アメ アガル

私が営む小さな雑貨屋のあるバリ島・ウブドでは、ここ数日、じっとりとまとわりつくような鬱陶しい雨の日が続いた。
雨が続くと、おのずと客足もにぶる。
しっとりと、アスファルトを濡らす程度の艶っぽい雨などではなく、台風を思わすような荒々しい豪雨の中など、誰も好き好んで外出などしないのだ。
私は、滞在先であるバンガローに併設されているギャラリーに展示された、うっすらと埃をかぶる古ぼけた絵を見てぼんやりと、この数日の売り上げのことを思い出したりなどして、そしてついには、苦々しいため息をついた。
「ワタシ、コレ、スキ」
気付くと背後に、たっぷりとした髭をたくわえたオーナーが立っていた。
「でもこれ、長い間ずっと売れてないよね?」
オーナーが指差したそれだけに限らず、私がこのバンガローとお付き合いを始めてから一度として絵が売れたという朗報を耳にしたことはなかった。
「チガウ。コレ、マダ 5years ダケ。コッチ、10years」
経営者にしてみたら、その売れ残り年数の長さに、思わず頭を抱えることだろう。
しかしそれどころか彼は、十年もの間微動だにせず、壁にへばりつくようにしてこのギャラリーにとどまり続ける絵を前に「ワタシ、コレ、トッテモスキ」と、誇らしげにそう言う。
水を差すように、皮肉を口にしただけの私は「ふーん」と呟き、扉の向こう側から差し込む強い日差しに目を細めた。
「太陽が散歩から戻ってきたね。今日はとってもいい日だ」
拙すぎる日本語よりは、もうちょっとマシな英語でオーナーが言った。
私が営む小さな雑貨屋「asian zakka Moti」は、客足が増えるであろう快晴の今日、店を閉めている。
たった一人のスタッフが休日を迎えれば、店を開けることは出来ない。
ついつい、期待できたであろう売り上げのことを考えてしまっている自分に嫌気がさしてバイクを走らせた。
知らない町を、初めての道を、通り抜けてみる。
そこには、
空気が、
景色が、
時間が、
自然の中から生まれる音、誰かが奏でる音色が、
人が、
のんびりと、ゆったりと、まるで何かに抵抗するということを忘れてしまったかのように、すべてを受け入れるようにして、静かに、悠然と、そこにあった。
七夕の今日は、美しく輝く月や星を見ることが出来るだろうか。
そんなことをふと、期待していた。