天然素材「犬肉」

バリ島の犬が苦手である。

理由は、日本の犬はそのほとんどが、
「家族の一員として」もしくは、
「ペットとして」お行儀よくしつけられ、
人に受け入れられているのに対し、
バリ島の犬はそのほとんどが、
誰かの所有物として存在するわけでなく、
野生のように「本能丸出し」で生きているからだと思われる。
でもちょっと、この「丸出し」ってのは、なんだな。
なんかちょっと共感持てる感じである。

これは気候的に仕方のないことなのだが、
皮膚病で皮膚のただれた汚い犬がほとんどだし、
たまに、本当に気の毒な話なのだが、
恐らく交通事故に遭ったのであろう、
「脳みそ剥き出し」って犬が歩いていたりする。
これにはさすがにぎょっとしてしまうのである。
その他にも足が一本足りなかったり、
肉の一部がそげていたり、
かなり悲惨な感じのケースも少なくない。

そしてなんといっても、
ワイルドワイドな彼らは、
けたたましく吠えまくりながら、バイクを追いかけたりする。
これは本当に恐怖である。
今にも噛みつかんばかりの勢いで、そして、
「食い殺したる!!」ってくらいの形相で、追いかけてくるのである。
私もこれまで何度も追い掛け回された。
「あとちょっと!! おしいっ!!」ってくらいの距離まで追いつかれ、
片足を持っていかれるのではないかと恐怖におののいたこともある。

でもそのうち気が付いた。

彼らは短距離ランナーであって、
逃げ回る猛スピードのバイクの速さを持続して
長距離走ることはできない。

「本気で追いつくと思ってるのかコノヤロー」である。

逃げおおせたから言えるこのセリフ。

そして気付いたことがもうひとつ。

犬なんかより強敵なのは、実は、
ピヨピヨ愛らしい音声を発しながら呑気に歩くヒナドリと、
その親だったり、猫だったりするのだ。

彼らはバイクが己の目前に迫ると、
恐怖におののきながらもバイク目掛けて突進してきたり、
また、奇妙な動きで惑わせておいて直前で身を翻したり、
ややこしい動きをする。

そのお陰で、ダイナミックに横転したり、
壁に激突しそうになったりと、
犬なんかよりもよっぽど多大な被害と迷惑をかけられている。

この場合の対応策として、地元の人いわく、
犬に追われたらぜったいにスピードを出して逃げないこと、
目を合わせないこと、
平常心でやりすごすこと、など、
「対人」にも活用できそうなアドバイスを頂いた。

そして、同調しがたかったが、みょうに納得してしまったのが、
「鳥や犬が飛び出してきたら、
ヘタに避けずにそのままひき殺しなさい。
死んだら人間が食べるんだから問題ない」

というものである。

まぁね、遅かれ早かれ食べられる運命にある生き物なんだけどねぇ。

って、おい!
入ってんぞ、そこ!!

そうです。
ここバリ島では「犬肉」が食用として流通しているのであります。

「犬食べたことある?」と地元の人に聞くと、
「そんなの食べないよ」と、眉間に皺を寄せる人もいれば、
「あるある。美味しい!」と言う人、あり。

かくいう私も、実は、数年経って知ったことなのだが、
不本意ながら犬肉を食べたことがある「らしい」。

うちのご近所さんの雑貨屋さんのオーナーさんと立ち話をしていたとき、
「そういえばさ、
あのときのサテ(焼き鳥のようなもの)パーティーで食べた肉、
あれ、だったんだよ」
と、さらりと言われたとき、
私の中に衝撃が走ったのは言うまでもない。

「またぁ。冗談でしょ?」
「冗談じゃないよ」

かりにも犬である。
だって、あの「」だよ?
なんの断りもなく「」?
それってありなの?

まぁ、食べてしまったものはどうしようもない。
ないのであるが、その辺のこ汚い、伝染病を持っていそうな、
どこにひそんでいるのか人の嗅覚でかぎわけられる体臭をもち、
夜になると集団で遠吠え合戦を始め睡眠を妨げる、
ワイルドワイドなあれらだよ?

みなさん。

「食用」として飼育されてるわけじゃありませんからね。

その辺のいわゆる野犬ですから。

「知ってる?
ある日突然、その辺一帯にいた犬がごっそりいなくなるんだよ。
うちの犬がいなくなったときも、
みんなが“サテにされて食べられたんだ”って、そう言ってた」

地元の人、愛犬がいなくなった当時をそう振り返り、
しんみりした話と思いきや、「サテだよ、サテ!!」と、大笑い。
そうか。笑うところだったのか。
人もワイルドにできてるらしい。

食して数年経った今も、人体になんらかの影響が出てるわけでもなし、
「このサテ美味しいね!!」と、喜んで食べてた記憶があり、
別になんてことないことなんだろうけど、
日ごろ「どうしてこうもこの辺の犬は汚くて凶暴なのだ」
という目で見ていた一般的なバリ犬を、
そうか、私は知らぬ間に「うまい、うまい」と食べていたのだな、
そうか、そうだったのか・・・。

合掌。

せめて、私が食べてしまったものが、
失踪した友達の犬ではありませんように。
そういう話、ほうぼうで聞くから。