不吉な預言者
旅先で不吉な冗談を口にすると、有難くないことに、8割方が的中してしまうという縁起の悪さ。
タイへ出発する当日、カトマンズで定宿としているホテルへ念のため予約のメールを送信したところ、3日後に「OK」の返事が届いた。
早朝5時半起きで空港に向かうとフライト時間が遅れ、到着先のネパールでは入国審査とビザの申請で一時間立ちっぱなしで待たされ、ほとほと疲れて果てて、ようやくホテルに到着。
顔なじみのスタッフが笑顔でお出迎え。「疲れたでしょう? お茶でも飲む?」と、疲れた体が欲する甘いミルクティーを勧めてくれた。
熱い熱いネパリーティーをすすりながら、ロビーのソファーにどかっともたれ、すっかりリラックスをした私は、あくまでも100%の冗談でこんなことを口にした。
「こんなに寛がせておいて、今さら部屋はないって言われたら笑っちゃうよねー」「だねぇ。のんきに寛いでる場合じゃないよ」アハハと、妹。
美味しいお茶を飲みながら、一息ついて「で、何階の部屋?」とスタッフに切り出すと、「部屋はぁー、ありませーん」の凍てつく一言。
「え?」
「部屋はぁー、満室でぇ、ありません」
「またぁー、冗談でしょー」
「ありません」
キッパリなうえに真剣な顔。
メールで「OK」を出したうえに、空港にお迎えの車まで手配しておいて、挙句、快くホテルに迎え入れ、お茶まで出しておきながら、いったいこれはどういうことか?
「冗談はいいから」「冗談じゃありません」「予約したじゃん!」「部屋ありません」
・・・・・・。
予約がどうこうではないのである。
「この程度の理不尽は抵抗しないで受け入れる」
この国の鉄則。学んだこと。
とはいっても、それは「本日に限り」ということで素直に納得。明日になれば一室空きがでるそうなんである。
「ありえない冗談」がカンタンに実現してしまうこの国では、自分の身に降りかかって笑えないような冗談を口に出すのは、極力避けようと思ったしょっぱなからの出来事。