あの場所のアップルパイ
数年前にも一度、この場所へやって来た。
あの頃と一緒のガイドと、同じ道を辿って。
彼とはかれこれもう5年もの付き合いになるが、背丈は少し伸び、顔つきも少年から青年のそれへと変化した。
出逢った頃はおぼつかない足元でよちよち歩きをしていたネパールの娘は、学校で習い始めた英単語を紡ぐようになり、甘ったれだった彼女にも弟ができた。
弟のように思っていたあの子は、10代で結婚をし、家族を養うため土作りの質素な家を離れ、いよいよ小さな村から外国へと飛び立った。
そういえば。
あのときはまだ、もう少し息を整えて、この道を歩いてゆけたように思える。
私もまた、あの頃とは変わった。
でも。
ただ、ただ、目の前に圧倒的に、絶対的なる存在感で広がる景色と、こんな辺鄙な山間の宿で作られている絶品のアップルパイだけは、あの頃と寸分違わぬ様相と味わいで、私を出迎えてくれた。
ネパールのあの山へ、焼きたてのアップルパイへ、また辿りつけるだろうか・・・。
2006年を終え、2007年を迎えようとする今、過去と未来の合間に揺れながら、ふとそんなことを思ったひととき。