問題:「賽は投げられた」という有名な言葉を残したのは誰?

最近とてもハマっている「素晴らしい書物」を見つけたので、より多くの人にその作品を読んでもらえるようにと、ちょっとした普及活動を展開しているという友人。

正直、まったく興味なかったのだが、私の意思などお構いなしに少々興奮気味に話を続ける。

「今ね、『ローマ人の物語』っていうのを読んでるんだけど」

「えっ? 『ローマの物語』? 一体どんな話よ」

「ローマ!!!」(ちょっとイラっときたか?)

「あっ。ローマ人ね。それで?」

「全28巻まで出てるんだけどね。その話の中で登場するシーザーが・・・。シーザーは知ってるでしょ?」

「シーザー? なにそれ。シーザーサラダとかなら知ってるけど」

・・・・・。

友人は一瞬「奇跡的なバカ」でも見るような遠い目をしたが、素晴らしい文学は「バカの壁」を越えて広めるべきだと思い直したのだろう。すぐに気を取り直して、目の前の「無知」がシーザーが何者だか理解していないことなどこの際「いいや」といった風に、先へと話を進めた。

熱弁を続ける友人だったが、後にその友人が指摘したように「ローマ」にも「歴史」にも「英雄」にも関心のなかった私は、申し訳ないがほとんど上の空状態であったがため、ローマの歴史がどのように展開されたのかまったく謎のままである。

ちなみに、この「シーザー」であるが、ローマの英雄「ユリウス・カエサル」のことで、英語読みされたのが「ジュリアス・シーザー」なのだという。

シーザーは、古代ローマの軍人、政治家であり、さらにはなんと、文筆家でもあり「ガリア戦記」という著書を残している。ものすごく多忙な人だ。

話に飽き始めたのを悟ったのか、さっきまで愛読書のことを情熱的に語っていた友人が「で、最近なにか本読んだ?」と話を振ってきた。

「えっ?!!」

何かやましいことでもあるかのように、過敏に反応してしまった私。

「本ねぇ〜」と、意味もなく語尾を引き延ばし「ところで、それって28巻もあるんでしょ? 全部部屋に保管してるの?」と、なるべく不自然にならないよう「質問に対して質問で返す」といったマナー違反を犯し、話をそらす。

友人はとくに気にした風もなく「読んだ巻はすべて実家に置いてくる」さらには「歴史の好きなお母さんも喜んで読んでいる」などといったことを話してくれた。

ふ〜〜〜。なんとかごまかせたよ。

実は私も昨日読み終わったばかりの本があったんだけどさ。名前を出したところで絶対に「知らない」だろうし、決して対抗するわけじゃないけど、相手は「有名な歴史小説家の塩野 七生 著者のローマ人の物語」である。

著者はこの作品を「歴史」として書いたものではなく、「小説」として描いたものだと話しているらしいが、「古代ローマの歴史をこんなにわかりやすく、魅力的に描いた作品に初めて出会った」といたく感動している友人を前に、まったく「ジャンルの違う」というか「毛の色が違う」著書を口に出すことによって、この場をシラケさせてしまうのではないか? 

そんな不安がつきまとい、私は正直に打ち明けることが出来なかった。


「最近読んだ本? クーロン黒沢って知ってる? クローンじゃないよ、クーロンね。あ、別に香港の歴史とかに関わってる人じゃないから。著書の多くはアジア関連のものが多いんだけどね。え? どんなこと書いてる人かって? えっとぉ・・・、たとえば今回私が読んだのは『裏アジア紀行』ってタイトルのものなんだけどね・・・」